ゼロトルクパターは「トルクが発生しないことでヘッドが回転せず、フェースの向きが安定する」と言われています。しかし実際には、“完全なゼロ”ではなく、「あるトルク」と「ないトルク」が共存しているのです。今回は、その仕組みを立体的な視点から解説します。
三次元の回転軸を理解する
物体の運動を考えるとき、三つの回転軸(X・Y・Z軸)を理解することが重要です。これをパターヘッドのフェース中央を基準に考えてみましょう。
- Y軸:地面から空に向かう軸。ここでの回転は、フェースが左右に開閉する回転運動を意味します。
- X軸:ターゲットラインに沿った軸。トー側が上下に動くような回転です。
- Z軸:ヒールからトーへ向かう軸で、クラブのロフト角(上下方向)が変化する回転を指します。
ゼロトルクパターでは、このY軸とZ軸の回転、つまりフェースの左右と上下の向きに影響するトルクが抑えられています。
ゼロトルク設計の基本と錯覚
ゼロトルク設計のヘッド単体を見ると、どの軸方向にも回転する力を持ちません。つまり、理論的には重心の偏りがなく、どの方向にも等しく動き出せるように感じられます。しかし実際のパッティングでは、ヘッドを安定的に動かすことが可能です。
その理由は、ライ角の存在にあります。

ライ角が生み出す「感じるトルク」
シャフトはヘッドに対して傾いて装着されており、これにより手元(グリップ位置)とクラブヘッドの中心の間に前後方向の距離のズレが生まれます。このズレが、クラブが「垂れ下がろうとする力」、すなわちトルクを手首にかけるのです。
このとき、プレイヤーはライ角を維持しようとする力によってクラブの重みを感じ取ることができます。クラブの重みが変化しなければ、ライ角も一定に保たれているということになり、それが安定したストロークにつながります。
フェースの安定とトルクの種類
ゼロトルクパターの特徴をもう一度整理しましょう。
- ないトルク:フェースの左右の開閉やロフトの変化に関するトルクはほとんど発生しない。
- あるトルク:トーが下がるような回転(X軸方向)のトルクは手首にかかる。
この「あるトルク」はフェースの向きには影響せず、むしろクラブの重みを感じるために必要なトルクであると言えます。これにより、プレイヤーはストローク中にヘッドの存在を感じやすくなり、ストローク安定性が向上します。実際問題として、X軸方向のトルクを無くすにはライ角を90度にする必要がありますが、ゴルフのルール上80度を超えるライ角を設定することができないのでなくせないトルクとも言えます。

トルクの強弱とライ角の関係
この手首にかかるトルクの強さは、手元とクラブヘッドの重心との距離が長いほど強くなります。つまり:
- ライ角が寝ている(フラット)ほど、前後のズレが大きくなり、トルクも強くなる。
- ライ角が立っている(アップライト)ほど、ズレは小さくなり、トルクも小さくなる。
自分の感覚に合わせた構えを選ぶための指針は以下の通りです:
- クラブの重みをしっかり感じたい人 → 手元を低く、ややフラット気味な構えに。
- 軽く吊り下げるように構えたい人 → アップライトな構えに。
ただし、極端にアップライトまたはフラットにすると「目の下でボールを捉える」基本が崩れ、ラインがゆがんで見えてしまったり方向性が不安定になる可能性もあるので注意が必要です。
まとめ
ゼロトルクパターには「ないトルク」と「あるトルク」が共存しています。フェース面の安定性に影響を与えるトルクはゼロに近づけられており、一方でプレイヤーがクラブの重みを感じられるようなトルクは残されています。
この“感じるトルク”こそが、ストロークを安定させる鍵となるのです。自分にとって心地よい構えやライ角を見つけることで、ゼロトルクパターの性能を最大限に引き出しましょう。